ケインズの美人投票とは?ゲーム理論で読む「平均の0.8倍」
「みんなが選びそうなものを選ぶ」ゲーム。理論上の正解ははっきりしているのに、その正解を出すと勝てません。なぜそうなるのかを、経済学とゲーム理論から見ていきます。
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ケインズの美人投票
「美人投票」は、イギリスの経済学者ジョン・メイナード・ケインズが、1936年の著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』の第12章で使ったたとえです。
当時の新聞には、100枚の顔写真から一番美しいと思う6人を選び、応募者全体の好みに一番近い選び方をした人が賞品をもらえる、という懸賞がありました。この懸賞で勝ちたければ、自分が美しいと思う顔を選んでも意味がありません。 選ぶべきなのは「ほかの応募者が選びそうな顔」です。
しかも、ほかの応募者も同じことを考えています。すると本当に予想すべきなのは「みんなが、みんなの選びそうな顔をどう予想するか」になります。 ケインズはこれを第3段階と呼び、4段階目、5段階目、さらに上まで読む人もいるだろう、と書きました。
ケインズが言いたかったのは株式市場のことです。株価は会社の本当の価値よりも、「ほかの投資家がこの株をどう評価するか」の読み合いで動く。 美人投票は、その構造を一言で表したたとえとして今も使われています。
数字のゲームにすると
このたとえは、のちに数字当てのゲームとして定式化されました(1981年にアラン・ルドゥー、1986年にエルヴェ・ムーランが紹介しています)。ルールは次のとおりです。
- 参加者全員が 0〜100 の数字を1つ書く
- 全員の平均に、決まった倍率をかけたものが目標
- 目標に一番近い数字を書いた人が勝ち
倍率は 2/3 がよく使われます。1995年に経済学者のローズマリー・ネーゲル(Rosemarie Nagel)が実際に人を集めて遊ばせた実験を発表し、それをきっかけに広く知られるようになりました。 英語では「p-beauty contest」や「guessing game」と呼ばれます。
このサイトの美人投票は、倍率 0.8(平均の8割)を使っています。理由は後で説明します。
ゲーム理論の答えは「全員 0」
全員が 100 を書いても、目標は 100 × 0.8 = 80 です。つまり 80 より大きい数字は、どんな場合でも目標から遠くなります。ゲーム理論ではこういう選択肢を「支配される戦略」と呼び、合理的な人はまず選びません。
全員がそれを分かっているなら、全員が 80 以下を書くはずです。すると目標の上限はさらに下がって 64 になります。これを繰り返すと、上限はこう縮んでいきます。
| 読んだ段階 | 目標の上限 |
|---|---|
| 1段階 | 80 |
| 2段階 | 64 |
| 3段階 | 51.2 |
| 4段階 | 41 |
| 5段階 | 32.8 |
| 10段階 | 10.7 |
| 20段階 | 1.2 |
どこまでも読み続けると、上限は 0 に行き着きます。全員が 0 を書けば目標も 0 で、誰かが1人だけ数字を変えても得をしません。 この「誰も1人だけでは動く理由がない状態」がナッシュ均衡で、小数も書けるルールなら、このゲームのナッシュ均衡は全員が 0 を書くことだけです。
書けるのが整数だけの場合は、もう1つ均衡があります。3人以上で全員が 1 を書くと、目標は 0.8 です。 ここで1人だけ 0 に変えると目標がさらに下がり、0 の方が目標から遠くなってしまいます(3人なら目標は約 0.53、0 との差は約 0.53、1 との差は約 0.47)。 2 に変えても同じく遠くなるので、全員 1 も誰も動く理由のない状態になります。
ちなみにこのサイトの美人投票は整数だけで、全員が目標から同じ距離のときは「勝者なし・全員 −1」です。全員が同じ数字を書くと必ずこうなるので、 理論上の答えにみんなでたどり着くと、全員そろって負けます。
それでも 0 を出すと勝てない
理屈の上では 0 が正解です。ところが実際に人を集めて遊ぶと、0 を書いた人はまず勝てません。 ほかの人が、そこまで読まないからです。
これを説明するのが「レベルk思考」という考え方です。人によって、何段階まで相手の考えを読むかが違う、とします。
| レベル | 考え方 | 書く数字 |
|---|---|---|
| レベル0 | 何も読まずに書く(平均すると50前後) | 0〜100 |
| レベル1 | レベル0の人ばかりだと考える | 40 |
| レベル2 | レベル1の人ばかりだと考える | 32 |
| レベル3 | レベル2の人ばかりだと考える | 25.6 |
| レベル4 | レベル3の人ばかりだと考える | 20.5 |
実験では、1〜2段階で止まる人が多いことが繰り返し確かめられています。そういう場で 0 を書くのは、読みすぎです。 目標はあくまで「その場にいる人たちの平均」で決まるので、勝つのはその場の平均的な読みより、ちょうど一段だけ深く読んだ人です。全員より深く読もうとすると、今度は読みすぎて外れます。
つまりこのゲームで本当に考えるべきなのは、理論上の正解ではなく「この場の人たちは何段階まで読むか」です。 自分の好みではなく、ほかの人の考えを読み合う——ケインズが描いた構図そのものです。
繰り返すとどうなるか
同じメンバーで何ラウンドも続けると、数字はだんだん下がっていきます。前回の結果を見た全員が「今度はもう一段読もう」と考えるからです。 実験でも、ラウンドを重ねるごとに 0 へ近づいていくことが知られています。
倍率が大きいほど、下がり方はゆるやかになります。たとえば「1段階読むごとに上限がどこまで下がるか」で比べると、5段階読んだときの上限は倍率 2/3 なら 13.2、倍率 0.8 なら 32.8 です。このサイトの美人投票が 0.8 を使っているのは、2/3 より数字が 0 付近に張りつきにくいからです。
ただ、倍率を変えるだけでは、何ラウンドも続ければやはり数字は下がっていきます。このサイトで読み合いが長く続くいちばんの理由は、 途中で追加されるルールです。ルールが増えるたびに「全員 0 に向かう」流れそのものが崩れるので、同じ戦い方は長く通用しません。 ルールの中身は詳細ルールにまとめています。
デスゲームの題材として
ルールが1行で説明できるのに、読み合いには底がない。この性質から、美人投票はフィクションの題材にもなってきました。 漫画・ドラマで知られる『今際の国のアリス』にも、平均の0.8倍を当てる「美人投票」のゲームが登場します。
このサイトでは、10ラウンドの合計点で競う美人投票と、ライフ制の美人投票サバイバルを遊べます。途中で増える追加ルールは、このサイトで独自に作ったものです。
※ 当サイトは『今際の国のアリス』の作者・出版社・制作会社とは関係ありません。
実際に遊んでみる
理論上の答え(ナッシュ均衡)は「全員 0」。でも、実際の数字がそこへ向かうかどうかは、その場のメンバーと状況しだいです。 慎重に読む人ばかりの卓もあれば、あえて大きな数字を投げ込んで場をかき乱す人もいる。前のラウンドで負けた誰かの一手や、追加ルールの一行で、流れはあっさり変わります。
もう遊んだ人へ。あなたの卓の数字は、0 までたどり着きましたか? たどり着かなかったなら、何がそれを止めたのでしょう。 読みすぎた誰か、まったく読まなかった誰か、それとも途中で増えたルールでしょうか。
まだ遊んでいない人へ。理屈が分かったあなたは、0 を書きますか? この記事を読んだ友達も、きっと同じことを考えています。 はたしてその場は、理論どおりの答えに落ち着くのか。確かめられるのは、実際に遊んだ人だけです。
URL を送るだけで、3〜10人ですぐに遊べます。
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