みんなと違う方が勝つ?美人投票の「逆張り」とエル・ファロル問題

美人投票に「逆張り」のルールが入ると、目標から一番遠い人が勝ちます。ただのあまのじゃくなルールに見えますが、実はこれ、経済学者が本気で研究してきた問題とまったく同じ形をしています。

文:なおすけ / 公開 / 更新

逆張りでは、0か100しか選ばない

美人投票は、0〜100の数字を出して「全員の平均の8割」に一番近い人が勝つゲームです。 途中で追加されるルールの1つ「逆張り」が入ると、勝ち方がひっくり返ります。

  • 逆張り目標から最も遠い人が勝つ。

目標から遠くに離れたいなら、中途半端な数字を出す理由はありません。目標がどこにあっても、一番遠いのは必ず 0 か 100 のどちらかの端です。 つまりこのルールが入ると、実質的に「0 を出すか、100 を出すか」の二択になります。

では、どちらが勝つのか。全員が 0 か 100 を出したとすると、目標は「100 を出した人の割合 × 80」になります。 目標が 50 より下なら 100 のほうが遠く、50 より上なら 0 のほうが遠くなります。計算すると、100 を出した人が全体の 62.5% 未満なら 100 の勝ち、それを超えると 0 の勝ちです。

5人のうち100を出した人目標勝つのは
116100
232100
348100
4640

全員が同じ数字だと、全員が目標から同じ距離になるので「勝者なし・全員 −1」です。ランダムウォークなどほかのルールが重なっているときは、境目が少しずれます。

5人なら、100 を出す人が3人までなら 100 の勝ち、4人になると逆転して 0 の勝ちです。みんなが 100 に寄るほど、100 は負けに近づきます。

エル・ファロル・バー問題

この形は、経済学者で、複雑系の研究でも知られるブライアン・アーサー(W. Brian Arthur)が、1994年の論文で考えた問題とそっくりです。

アメリカ・サンタフェに「エル・ファロル」というバーがあり、行くかどうかを毎週迷う100人の客がいます。 店に来た人が60人未満なら楽しく飲めますが、60人以上だと混みすぎて、家にいたほうがましです。 客はほかの人と相談できず、それぞれが「今週は混むかどうか」を予想して、行くかどうかを決めます。

美人投票の逆張りに置き換えると、100 を出すのが「バーに行く」、0 を出すのが「家にいる」です。行く人が60%未満なら行った人の勝ち、 100 を出す人が 62.5% 未満なら 100 の勝ち。境目の数字までほとんど同じです。

みんなが同じ予想をすると外れる

もし全員が「今週は空いているはず」と予想すれば、全員が行って大混雑になります。「今週は混むはず」と予想すれば、誰も来なくてがらがらです。みんなが同じ予想をすると、その予想は必ず外れます。

このように、信じられることで外れてしまう予想を自己否定的予言と呼びます。 「みんなが信じるから本当になる」自己成就的予言(取り付け騒ぎで銀行が本当に潰れる、など)のちょうど逆です。

アーサーが示したのは、この状況では全員が使える「正しい予想の仕方」は存在しない、ということでした。 逆張りの美人投票でも同じです。「今回は100が少なそうだから100」と全員が考えた瞬間、100 は多数派になって負けます。

少数派ゲームと、くじ引きという答え

エル・ファロル問題を、もっと単純にしたのが「少数派ゲーム(マイノリティ・ゲーム)」です。 1997年に、物理学者のダミアン・シャレ(Damien Challet)とイーチェン・ジャン(Yi-Cheng Zhang)が発表しました。

  • 奇数の人数で、全員が A か B のどちらかを選ぶ
  • 少ないほうを選んだ人が勝ち

境目がちょうど半分になっただけで、構造はエル・ファロルと同じです。前回の結果を見て「次は逆に行こう」と考える人が多いほど、逆に行った側が多数派になります。

では、理論上はどうするのが正解なのか。ゲーム理論の答えの1つは、くじ引きのように確率で選ぶことです。 いつも同じ側を選ぶ人は、ほかの人に読まれてしまいます。読まれないためには、自分でもどちらを選ぶか決めていない状態にするのがいちばん強いのです。 こうした「確率で選び分ける」戦い方を混合戦略と呼びます。

逆張りが入った美人投票でも、毎回同じ端を選ぶ人は読まれます。0 と 100 を気まぐれに行き来するのは、実は理にかなった戦い方です。

レッドオーシャンは似て非なるもの

美人投票には、もう1つ「みんなと違うこと」が求められるルールがあります。

  • レッドオーシャン他者と同じ数字を出した人は失格(−2)。その数字は場に出ていない扱いになる。

ただし、これは少数派ゲームとは違います。罰を受けるのは、多数派の側にいることではなく、ほかの人とまったく同じ数字にぶつかることだけです。 みんなと近い数字でも、ぴったり重ならなければかまいません。 どちらも、ほかの人と同じことをすると損をする反協調ゲームの仲間ですが、避けるものが「群れ」か「衝突」かで違います。

この2つが同時に入ると、話はさらにややこしくなります。逆張りで狙いたい 0 と 100 は、レッドオーシャンのせいでそれぞれ1人しか持てません。 ほかの人は 1 や 99 のような、端のすぐ内側を取り合うことになります。

実際に遊んでみる

逆張りが入った瞬間、それまでの「平均の少し下を読む」戦い方は使えなくなり、0 か 100 かの読み合いが始まります。 あなたは、どちらの端に立ちますか。

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