言葉なしで待ち合わせできる?シェリングポイントとパーティゲーム
相談できないのに、なぜか相手と同じ答えを選べてしまう。経済学者トーマス・シェリングが「フォーカルポイント」と呼んだこの現象は、パーティゲームの読み合いのあちこちに顔を出します。
文:なおすけ / 公開 / 更新
相談せずに待ち合わせる
「明日、ニューヨークで知らない人と会うことになった。ただし場所も時間も決めておらず、連絡を取る方法もない。どこに、何時に行く?」
アメリカの経済学者トーマス・シェリングは、1960年の著書『紛争の戦略』でこんな問いを紹介しました。学生たちに尋ねると、答えは驚くほどそろいました。 多くの人が選んだのは、グランド・セントラル駅。時刻は、ほぼ全員が正午を選びました。
「コインの表か裏か、相手と同じ方を選べたら勝ち」と聞けば、多くの人が「表」を選びます。理屈の上では、どちらを選んでも同じはずなのに。
どちらの問いも、相手と同じ答えを選べたときだけ得をする、という形をしています。ゲーム理論ではこういう状況を協調ゲーム(coordination game)と呼びます。しかも相談ができないので、言葉を交わさずに答えをそろえる 「暗黙の協調」になります。
シェリングは、相談しなくても人が自然に集まる答えを「フォーカルポイント(焦点)」と呼びました。今では彼の名前をとって「シェリングポイント」とも呼ばれます。 シェリングはのちに、こうした駆け引きの研究で2005年のノーベル経済学賞を受けています。
なぜ同じ答えに集まるのか
大事なのは、「正しい答え」を探しているわけではない、ということです。探しているのは「相手も選びそうな答え」。そして相手も同じことを考えています。 だから、とくに目立つもの、みんなが知っているもの、ほかと比べて一つだけ違うものに答えが集まります。
何が目立つかは、その場の人たちが何を共有しているかで決まります。ニューヨークの人ならグランド・セントラル駅に集まるように、 同じ学校の友達同士、同じ職場の同僚同士なら、それぞれ別の答えにそろうはずです。
ここで効いているのは、ただ「みんなが知っている」ことではありません。自分だけが知っている名所は、待ち合わせの答えになりません。 相手もそこを知っていて、自分が知っていることを相手も分かっていて、相手が分かっていることを自分も分かっている——。 こうした「知っている」が、どこまでたどっても食い違わない状態を、ゲーム理論では共有知識(common knowledge)と呼びます。 だから安心して、そこを選べるのです。
この「自分の好みではなく、みんなが選びそうなものを選ぶ」という考え方は、経済学者ケインズが株式市場のたとえに使った「美人投票」とも通じるものがあります。 この記事の後半に出てくる、0〜100の数字で遊ぶ美人投票ゲーム(経済学では「p美人投票ゲーム」と呼ばれます)は、このたとえを元にのちに作られたものです。
ワードウルフは合言葉探し
ワードウルフでは、市民は同じお題を、人狼だけが少し違うお題を持っています。お題は口に出せません。 このとき市民同士が話題にするのは、たいていお題の「いちばん目立つ特徴」です。「温泉」なら、熱い、裸になる、旅行で行く。 相談していないのに、みんな同じあたりを話します。まさにシェリングポイントです。
人狼にとっては、これが手がかりになります。みんなが目立つ特徴を口にするほど、市民のお題の見当がつき、話を合わせやすくなるからです。 逆に市民がマニアックすぎる特徴を話すと、今度はほかの市民から「それ、本当に同じお題?」と疑われます。
つまり市民は、仲間には通じるけれど、人狼には乗っかりにくい、ちょうどいい目印を探すことになります。 目立ちすぎても、目立たなさすぎても負ける。ワードウルフの面白さの半分は、この目印選びにあります。
こういう「内輪の人にだけ通じて、よそ者を見分けられる言葉」を、英語でシボレス(shibboleth)と呼びます。 旧約聖書の士師記で、この言葉を正しく発音できるかどうかで敵と味方を見分けた話が由来です。 ワードウルフの市民がしているのは、相談なしに、その場でシボレスを作り合うことだと言えます。
美人投票の「目立つ数字」
美人投票は、0〜100の数字を出して「全員の平均の8割」に一番近い人が勝つゲームですが、数字にも目立つものがあります。 0、50、100のような区切りのいい数字や、50の8割で40、その8割で32……と計算を進めた先の数字です。 後者は、相手が何段階まで読むかを読む「レベルk思考」の計算そのもので、ケインズの美人投票の記事で詳しく書いています。
普通のシェリングポイントは、みんなで同じ答えを選べたら得をする協調ゲームの話です。通常の美人投票なら、同じ数字を出しても勝ちを分け合うだけですが、 このサイトの美人投票には、ほかの人と同じ数字を出すと失格になる追加ルール「レッドオーシャン」があります。 このルールが入ると、みんなが思いつく目立つ数字は、そのままぶつかりやすい危ない数字に変わります。
ゲーム理論の言葉で言えば、ルールひとつで協調ゲームが反協調ゲーム(anti-coordination game)に変わるということです。 反協調ゲームは、ほかの人とぶつからないほど得をするゲームで、少数派ゲームがその代表です。さっきまで頼りになった「目立つ答え」が、今度は避けるべき答えになります。
「みんなが選びそうな答え」を読めることと、その答えを選ぶことは別の話です。読めたうえで、あえて外す。パーティゲームの読み合いは、たいていその一段先で決まります。
実際に遊んでみる
あなたの仲間内のシェリングポイントは、どこにあるのでしょう。ワードウルフで話してみると、思っていた以上にみんな同じことを言うはずです。
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