なぜ「パクチー」は伝わらない?価値観共有ゲームの心理学

「パクチー」と書いたのに、なぜか高い数字だと思われた。価値観共有ゲームでよく起きるこの行き違いには、心理学で名前のついた「心のくせ」が関わっています。

文:なおすけ / 公開 / 更新

ドレスは何色に見えた?

2015年2月に1枚のドレスの写真がインターネットで大論争を巻き起こしました。「青と黒」に見える人と「白と金」に見える人に、はっきり分かれたのです。 同じ写真を見ているのに、どちらの側も自分の見え方を疑わず、相手の答えに驚きました。のちに販売元が、本物は青と黒だったと明かしています。

価値観共有ゲームで起きていることも、これとよく似ています。「人気の食べ物」というお題であなたが「パクチー」と書いたとします。 好き嫌いが分かれるから低め、つまり12くらいのつもりです。ところがパクチーが大好きな人には、それが80に感じられます。 同じ言葉を見ているのに頭の中の物差しが違うのです。

このゲームの難しさと面白さは、このずれにあります。ここからは心理学の研究をもとに、ずれがなぜ起きるのか、どうすれば埋められるのかを見ていきます。

知ってしまうと、知らない人の気持ちが分からない

1990年にスタンフォード大学で心理学の博士課程にいたエリザベス・ニュートンは、こんな実験をしました。 2人1組になり、1人が「ハッピーバースデー」のような誰でも知っている曲を選び、そのリズムを指で机を叩いて伝えます。もう1人はそれを聞いて曲名を当てます。

叩く人は、聞く人が半分くらいは当ててくれるだろうと予想しました。ところが実際に当たったのは120曲のうち3曲、わずか2.5%でした。

叩いている人の頭の中ではメロディが鳴っています。だからリズムだけでも伝わる気がします。けれど聞く人に届くのは、ただのコツコツという音だけです。 一度知ってしまうと知らなかったときの状態を想像できなくなる。この心のくせは知識の呪い(curse of knowledge)と呼ばれます。 この言葉を1989年の論文で広めたのは、経済学者のコリン・カメラーたちです。

自分の数字を知っているあなたは、まさに曲を叩く側です。12だと分かったうえで「パクチー」を見ると、低い数字にしか見えません。 でも数字を知らない仲間にとっての「パクチー」は、ただの言葉です。

みんなも自分と同じはず

もう一つの心のくせが偽の合意効果(false consensus effect)です。自分の好みや考えをほかの人も同じように持っていると思い込みやすいことを指します。

1977年にスタンフォード大学の社会心理学者リー・ロスたちは、学生に「Eat at Joe's(ジョーの店で食べよう)」と書いた看板を体にかけてキャンパスを30分歩いてほしいと頼みました。そのうえで、ほかの学生がどれくらい引き受けると思うかを尋ねました。

引き受けた学生は「62%の人は引き受ける」と予想し、断った学生は「67%の人は断る」と予想しました。 同じ頼みごとなのに、どちらも自分と同じ選択をする人を多く見積もったのです。

「人気の食べ物」のような好みのお題では、このくせが特に強く働きます。パクチーが苦手な人はみんなも苦手だと思いがちです。 だから「パクチーは低い」が当たり前に思えて、ほかの見方があることに気づきにくくなります。

数字をたとえで伝えてきた人たち

人は昔から数字をたとえで伝える工夫をしてきました。

1805年にイギリス海軍のフランシス・ビューフォートは、風の強さを0から12までの13段階で表す方法を考えました。 手がかりにしたのは軍艦の帆です。この強さの風ならどれだけ帆を張れるか。船乗りなら誰でも同じように分かる様子で数字を決めたのです。 このビューフォート風力階級は1838年に英国海軍で正式に使われるようになりました。 のちに海の波立ちや陸の煙のなびき方、木の揺れ方でも判断できるよう書き換えられ、今も気象の世界で使われています。

鉱物の硬さを表すモース硬度も同じ発想でできています。1812年にドイツの鉱物学者フリードリッヒ・モースは、滑石を1、ダイヤモンドを10として、基準になる10種類の鉱物を硬さの順に並べました。調べたい鉱物がどの基準の鉱物に傷をつけられるかで硬さを決めます。

面白いのは、モース硬度が「順番」しか表していないことです。数字の間隔はそろっていません。9の鋼玉と10のダイヤモンドの差はとても大きく、ダイヤモンドは鋼玉のおよそ4倍の硬さがあると言われます。 心理学者のスタンリー・スティーヴンスは1946年に目盛りを性質で分け、このように順番だけを表すものを順序尺度と呼びました。スティーヴンス自身、順序尺度の例に鉱物の硬さを挙げています。間の幅までそろっている摂氏の温度計のような目盛りは間隔尺度です。

価値観共有ゲームの1〜100も順序尺度です。勝ち負けを決めるのは順番だけで、「12」と「31」がどれだけ離れているかは関係ありません。 大事なのは、全員が同じ順番に並べられる基準を持つことです。ビューフォートの帆やモースの10種類の鉱物のように。

言語心理学者のハーバート・クラークは、会話をする人どうしが「お互いに分かっている」と確かめ合った知識を共通基盤(common ground)と呼びました。 会話とはこの共通基盤を少しずつ積み上げていく共同作業だ、というのがクラークの考えです。 価値観共有ゲームは、お題が変わるたびにその場で共通基盤を作り直すゲームだと言えます。

伝わるたとえのコツ

ここまでの話から、たとえを伝わりやすくするコツが見えてきます。

  • 好き嫌いが割れにくいものを選ぶ。パクチーのように人によって評価が真逆になるものは、偽の合意効果の落とし穴です。多くの人が同じ順番に並べそうなものを選びましょう。
  • 最初に両端を決める。「このお題の100って何だと思う?」と先に端の例をそろえておくと、ビューフォートの帆のような共通の目盛りができます。
  • 出たカードを基準にする。場に出たカードは全員が確かに見た共通基盤です。「さっきのカレーよりは下」のように、モース硬度の基準の鉱物のように使えます。
  • 数字を知らないつもりで読み直す。書いたたとえを、自分の数字を忘れたつもりでもう一度読んでみる。知識の呪いから抜け出すいちばん簡単な方法です。

相手の頭の中を読むという点では、シェリングポイントの記事で書いた「相談せずに同じ答えを選ぶ」話ともつながっています。

実際に遊んでみる

あなたの「パクチー」は仲間に何点で伝わるでしょうか。数字がずれた瞬間の「え、そっち!?」が、このゲームのいちばん盛り上がるところです。

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